香港は法人税が16.5%と低く、一定額未満の利益に対しては8.25%が適用されます。また、外資向けの規制が少ない、資本金が少額でも法人設立できる、インフラが整っているなど、ビジネスを行う上で非常に良い条件が揃っています。
法人設立に関しては、会社登録所と税務署が連携しているため法人設立とビジネス許可の取得を同時に行えるなど、短時間で効率的に会社設立できる仕組みが構築されています。ただし、会社秘書役や監査担当者は香港人(もしくは香港の有資格者)でなければならないなど、特有のルールもあります。
本記事では、日本企業が香港で法人設立する際の手順や費用について詳しく説明します。日本企業が頻繁に遭遇する注意点についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
- 香港で法人設立するメリット
- 香港で法人設立する手順
- 香港で法人設立する費用
- 香港の税制
- 香港で法人設立する際の注意点
本題に入る前に・・・中国と香港は同じ?違う?
香港の法人設立を説明する前に、中国と香港の関係性について整理します。
香港はイギリスの植民地でしたが、1997年に中国に返還されました。しかしながら、中国全土とは完全には同化せず、香港独自の文化や制度を維持しています。
現在の位置づけとしては、香港は中国の特別行政区(SAR)ですが、中国とは独立した法制度を保有しています(一国二制度)。そのため、法人設立に関する法律や手続きは中国と同じではなく、香港の各種法律に準ずる必要があります。
香港で法人設立するメリット
香港の法人税は日本と比べて安く、また日本からのアクセスも優れています。外国人でも法人設立しやすい環境が整っているのもうれしいところ。日本企業が香港で法人設立するメリットを詳しく紹介します。
法人税が16.5%と低い
法人事業主については、利益のうち200万香港ドルまでは8.25%の税率(従来は16.5%)、200万香港ドルを超える利益については、従来通り16.5%の税率で課税される
税制 | 香港 – アジア – 国・地域別に見る – ジェトロ
香港の法人税は16.5%と、日本の法人税(23.2%)と比べて安く設定されています。また、2018年の税務条約改正により、200万香港ドル(約4,000万円:2024年11月時点のレート)までの利益に対しては税率が8.25%です。
これは外資系の企業に対しても適用されるため、香港でビジネスを展開した場合には、税額を大幅に削減できます。特に小規模ビジネスにおいては、非常に大きな節税効果が得られるでしょう。
資本金規制がほぼゼロ
最低払込資本金は1香港ドル
外資に関する規制 | 香港 – アジア – 国・地域別に見る – ジェトロ
香港の法人設立における最低資本金は1香港ドル(約20円)と非常に低く設定されています。この最低振込資本金は外資系企業にも適用されます。
法人設立前に準備する資金が少なくて済むため、まとまった資本金を準備することが難しい企業や、少ない資本でビジネスに取り組みたい企業などにとって大きな恩恵といえます。
また、香港では外資100%による法人設立も許可されています。いくつかの業種においては許可等が必要であるものの、日本企業が進出しやすい法的条件が整っています。
東南アジアなど海外進出に便利な立地
日本から香港までは、飛行機で5時間ほどです。羽田空港や成田空港、関西国際空港をはじめとした計10個の空港から直行便が出ています。
また、香港は東南アジアや世界各国の貿易拠点となっているため、今後世界進出を検討している方にとって重要な拠点となることでしょう。
整ったインフラ
香港はITや物流、交通インフラなどが充実しているため、ビジネスや観光にとって魅力的です。
香港は世界でも最高峰のネット環境を備えた都市として知られています。安定したインターネット環境が得られるため、オンラインを中心としたビジネスでも問題なく実施できます。
また、世界屈指の貿易拠点としても知られており、中国本土や東南アジア、その他世界の国々との貿易に強みを持ちます。
広州-深圳-香港を結ぶ「広深港高速鉄道」は、時速350kmの高速鉄道として知られており、広州から香港までを47分で結びます。日常生活で使うエリアも鉄道が整備されており、移動が容易なのも魅力の1つです。
香港で法人設立する手順
外国人が香港で法人設立する手順は、以下の通りです。
- 事前リサーチ
- 会社名の仮決定と予約
- 必要書類の準備
- 法人登記・ビジネス登録証の申請
- 銀行口座の開設
- 必要なビザの取得
また、香港政府が運営する以下のサイトでも最新の情報を確認できます。日本語には対応していませんが、英語やいくつかの言語で情報を得ることが可能です。
1.事前リサーチ
香港のビジネス事情や競合他社などを丁寧にリサーチしましょう。
また、法人設立形態によって手続きが異なるため、事前に決定しておくとよいでしょう。主な形態には、現地法人、支店、駐在員事務所などがあります。香港は外資系企業が法人設立しやすい環境が整っており、かつ外資規制も少ないため、現地法人の設立が一般的です。
2.会社名の仮決定と予約
香港での法人設立を決定したら、早めに会社名を決定し、利用有無の確認と予約をしましょう。香港では、利用したい名がすでに登録されている場合、同じ会社名は使えません。また、会社名は英語で作成する必要があり、中国語名は任意です。
会社名の確認・予約は、香港の会社登記所が運営するオンラインシステム「Cyber Search Centre」で実施できます。サイトを訪問し、利用予定の会社名が利用可能であるか早めに確認し、予約しておきましょう。
ただし、会社名が予約できるのは90日間までです。この期間を過ぎてしまった場合には、再度登録し直す必要があります。
3.必要書類の準備
香港法人設立およびビジネス登録に必要な書類を準備します。多くの国では法人登記とビジネス登録は別で実施する必要がありますが、香港では手続きを簡易化する観点から香港会社登録所と香港税務署が連携をとっているため、まとめての申請が可能です。
法人登記及びビジネス登録に必要な書類は以下の通りです。
- 設立申請書(Form NNC1)
- 会社定款の写し
- 商業登記署への通知書(IRBR1)
- その他
設立申請書(Form NNC1)は、政府の公式サイトから無料でダウンロードできます。
会社定款の写しは、会社名や有限責任の声明、資本と持分構成、会社の目的などを記載する必要があります。自社だけで会社定款の準備が難しい場合には、定款作成に慣れている弁護士や代行会社などに依頼するとよいでしょう。
商業登記署への通知書(IRBR1)は、上記と同様の公式サイトからダウンロードできます。
これらのほかに、別途書類や資料が求められる場合もあります。
4.法人登記・ビジネス登録証の申請
準備が完了したら、法人登記およびビジネス登録証の申請を行います。
法人登記およびビジネス登録の申請は、香港会社登録所もしくはオンラインサイトで実施できます。必要書類の提出と同時に、申請費用や諸経費を支払います。
結果がわかるまでにかかる時間は、オンラインの場合が最短で1時間、直接申請の場合には4日程度です。申請が受理された場合には会社設立証明書とビジネス許可証が発行されます。
5.銀行口座の開設
ビジネスで利用する銀行口座を開設します。法人設立前に銀行口座の取得が必要になる国もありますが、香港の場合には法人設立後で問題ないため、取得した法人登記証明書やビジネス許可証を利用して銀行口座の開設を行いましょう。
6.必要なビザの取得
法人設立後にビザの申請を行います。法人の経営者であれば投資ビザを取得するのが一般的です。一方で、新たに日本人の管理者や従業員を雇いたいのであれば就労ビザを申請します。
近年は、投資ビザや就労ビザの取得に関する難易度が高まってきているため、法人申請とともに、ビザ取得についても計画的に実施していく必要があります。
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香港で設立法人する費用
香港の法人設立で発生する費用は法人登記とビジネス許可証申請・取得にかかる費用です。
登記申請料は、オンラインと直接申請それぞれ以下の費用がかかります。オンラインの方が少しだけ安く、さらに受理されるまでの時間が短いため、一般的にはオンラインがおすすめです。ただし、実際に職員と話をしながら進めたい方は、直接申請を選ぶとよいでしょう。
オンライン申請 | 直接申請 | |
---|---|---|
登記料 | 1,545香港ドル(30,900円) | 1,720香港ドル(34,400円) |
ビジネス登録の申請は、登録期間を1年間と3年間の2つから選べ、それぞれ以下の費用が必要です。もし長期での経営を検討しているのであれば、更新の手間が少なく、かつ費用も少し安い3年証を選ぶのがおすすめです。
主な費用 | その他費用 | |
---|---|---|
1年証 | 2,000香港ドル(40,000円) | 150香港ドル(3,000円) |
3年証 | 5,200香港ドル(10,4000円) | 450香港ドル(9,000円) |
これ以外に、会社定款の作成やビザ取得などを代行した場合には、上記とは別に手数料等が発生します。また、従業員雇用やオフィスレンタルに関する費用は別途必要です。
香港のオフィス費用は東京よりも高い?
香港は中心部と地方でオフィスレンタルの費用が大きく異なります。香港の都心部は、東京の都心部よりもオフィスレンタル費用が高いため、東京のオフィス費用を参考にし、同程度もしくはプラスアルファの費用を準備できるか検討してください。
もしオフィスレンタルの費用が捻出できなければ、シェアオフィスやバーチャルオフィスを利用するという手もあります。自社オフィスの名義貸しや一部スペース貸しをしている代行会社もいるので、オフィスレンタルで困ったら相談するとよいでしょう。
大きな出費となるため、事前リサーチの際にオフィスレンタルに必要な費用を丁寧に調査しておくことをおすすめします。
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香港の物価は世界最高レベル?
香港は米コンサルティング会社マーサーが実施した世界生計費調査において、海外駐在員の生活費で3年連続でトップにランクインするなど、世界でも屈指の物価が高い都市として知られています。日本と比べ1.5~2倍といわれており、食費は1日あたり5,000~10,000円ほどかかります。さらに物価は年々上昇しており、中でも住宅費の高騰が顕著です。
そのため、日本人の管理人や従業員を雇用する場合には、一定水準以上の給与を準備する必要があります。もし自社で従業員を雇用する余裕がない場合には、特定の業務のみ代行会社に依頼し、総合的な支出を減らすことも可能です。
香港の税制事情
法人設立やビジネスと関連が深い香港の税制について確認します。
法人税
前述したとおり、香港の法人税は16.5%です。ただし、200万香港ドル(約4,000万円)までの利益に対しては税率が8.25%です。この税率は外資による現地法人設立でも適用されます。
所得税
1年間で香港に184日間以上滞在した外国籍保持者で収入がある人に対しては、給与所得税がかかります。給与所得税は以下の2種類が準備されており、どちらを利用するか選択できます。
- 最初の500万香港ドルに対しては15%、これを超える部分に対しては16%の税率がかかる
- 所得に応じて2~17%の間で税率が発生する累進課税
その他の税制
以下に関係のあるその他の税制をまとめました。
- 付加価値税:香港は付加価値税(日本でいう消費税)を導入していません
- 物品税:アルコール飲料やたばこ、ガソリン、化粧品などには物品税が課せられます
- 賭博税:宝くじや競馬などの収益に対して課せられる税で、収入源によって税率が異なります
- 資産所得税:不動産などで利益を得た場合に資産所得税の支払い義務が生じます
- 固定資産税:不動産を所有している場合に発生し、不動産価値によって税率が異なります
香港で法人設立する際の注意点
香港政府が外資系企業の参入を積極的に誘致していることもあり、日本企業でも香港で現地法人を設立できます。しかしながら、海外での法人設立は、日本での法人設立や運営と比べ、様々な困難が付きまといます。以下に香港で法人設立する際の注意点やポイントを記載しました。事前に確認し、対策を図っておくとよいでしょう。
会社秘書役は香港人を任命する必要あり
香港では会社の秘書役を任命することが義務付けられており、秘書役は香港に住所を持つ18歳以上の個人(もしくは香港に拠点を置く法人)である必要があります。日本人のみでの法人設立および運営は不可のため、信頼できる香港人を雇用する必要があります。
必要な資本を事前に準備しておく
香港では最低資本金が1香港ドルとはいえ、この資本金では会社運営をすることは不可能です。従業員の雇用やオフィス代、各種申請費、材料費、通信費、交通費など、様々な支出が発生します。また、日本円を香港ドルに両替する場合、一般的には開設した銀行口座経由で行いますが、現地通貨として着金するまでに数日かかるのが一般的です。
重要な場面で資金が不足しないように、十分な金額を事前に準備しておくとともに、お金の管理ややり取りは慎重に実施するようにしましょう。
口座開設に時間がかかる可能性あり
銀行の口座開設は、法人登記やビジネス登録の許可証があれば作成できます。ただし、昨今は外国人による口座開設が厳しくなってきており、銀行口座が開設できるまでに数日から数週間かかる場合がほとんどです。そのため、書類が揃ったらすぐに申請できるように、事前に準備を進めておきましょう。
就労ビザ取得の難易度が高い
法人の設立者であっても、外国人が香港国内でビジネス運営するためには適切なビザが必要です。基本的には、経営者は投資ビザ、従業員は就労ビザを取得します。香港では外国人の出入りが激しいこともあり、ビザ取得の難易度が年々高まっています。また、必要書類として、会社の経営計画や税務関連書類、個人の経歴を証明する各種書類などが求められる場合があります。
適切なビザが取得できない場合には、日本人が現地でビジネス活動を行うことはできません。ビザのせいで計画が遅れることがないように、法人設立と同時並行でビザに関する準備を進めておくとよいでしょう。
毎年の監査が義務付けられている
香港では香港公認会計士による監査が毎年義務付けられています。これらの義務を怠るとペナルティを科せられるとともに、場合によっては法人の運営許可を取り消されます。信頼できる公認会計士を探し、適切に業務を依頼するようにしてください。
また、法人税が低いことがメリットの香港ですが、英語での税務業務は日本と比べてより複雑です。税務処理が正しくできていない外資系企業も多いため、外資系企業には税務調査も入りやすくなります。自社で信頼できる税務担当を雇用するか、もしくは信頼できる会社に税務業務を依頼するなどして対応を図るとよいでしょう。