「世界一の親日国」ともいわれる台湾は、アクセスの良さも加わり、日系企業にとって人気の進出国です。近年法人税率が上がってきたものの、日本の法人税よりは安く、節税効果も期待できます。
しかしながら台湾の法人設立は、簡体語での社名設定や手続きが求められる、現地の代理人の助けが必要など、複雑な点も多々あります。また、近年はインフレや円安によるコスト上昇が発生していることから、事前リサーチや戦略立案の重要性も増しています。
本記事では、台湾で法人設立するメリットや手順、費用、注意点などを丁寧に説明します。台湾進出に関心のある方はぜひ参考にしてください。
- 台湾で法人設立するメリット
- 台湾で法人設立する手順
- 台湾で法人設立する費用
- 台湾の税制
- 台湾で法人設立する際の注意点
台湾で法人設立するメリット
台湾は日本からのアクセスがよく、さらに親日家が多いため、日系企業がビジネスをしやすい国として人気があります。また、わずかではありますが法人税率が日本より低い、節税効果も期待できます。
法人税率が日本よりも低い
台湾における法人税は以下の通りです。
営利事業所得税という。移転価格税制および最低税負担(ミニマム・タックス)制度を導入し、2018年度より税率が原則17%から20%になった。
引用元:税制 | 台湾 – アジア – 国・地域別に見る – ジェトロ
日本の法人税は23.2%のため、台湾での法人設立によって3%法人税を減らせます。また、次項で説明するように、台湾ではコストが日本よりもかからないため、法人の利益最大化に適しています。
昨今アジア圏では法人税の引き下げが進んでいますが、台湾は2018年から順次引き上げた、という事情があります。今後数年で法人税が再度下がる可能性は低い点には留意しておきましょう。
コストを抑えられる
台湾では事業を行う上でのコストを最小限に抑えられます。
人件費に関して言えば、2024年1月1日時点での台湾の最低時給は183台湾元(日本円換算で約880円)です。日本の同時点での最低時給は1,004円のため、台湾では10~15%ほど安い人件費で人材が雇用できます(ただし、専門性を要する仕事では最低賃金はあまり参考にならない可能性あり)。資材や原材料なども日本よりも少し安く購入できます。
コスト減と日本と比べて低い法人税を加味すると、ビジネスにおける支出や税額が削減できるため、利益向上につながります。
当記事では、台湾元から日本円に換算する際に、2024年7月時点のレートである1台湾元=4.8円を適用しています
日本からのアクセスが優れている
台湾はそれほど大きな国ではありませんが、台湾国内の5つの空港(「桃園国際空港」「台北松山空港」「高雄国際空港」「台中国際空港」「台南空港」)と日本が直行便で結ばれています。日本の主要空港(羽田や成田、大阪国際空港、福岡空港など)からのみ直行便が出ているアジア諸国が多い一方で、台湾行の直行便は各都道府県が所有する小規模な空港からも出ています。
これにより、日本のどこに住んでいても比較的簡単に台湾に渡航できるため、忙しいビジネスパーソンであっても出張や一時帰省などが可能。飛行機の搭乗時間は4~5時間ほどです。このアクセスのよさが、台湾に法人設立する1つの魅力といえるでしょう。
親日家が多い
台湾は親日家が多い国として知られています。2011年に発生した東日本大震災では、220億円もの義援金を日本に寄付したことで話題となりました。2023年の日本への渡航人数では、韓国に次ぐ第2位です。台湾国内ではアニメや漫画、音楽などに関するフェスタやイベントが頻繁に開催されています。
台湾が親日国である理由は、1800年代後半から1900年代前半にかけて、台湾を日本が統治していたことが発端と考えられていますが、「世界一の親日国」と呼ばれるほど、日本と台湾の関係性は良好です。
海外でビジネスを行う場合、現地人との関係性は非常に重要です。台湾であれば、現地人が日本企業や日本人に対して非常に寛容なため、異国の地であっても安心してビジネスを展開できるでしょう。
台湾で法人設立する手順
台湾の法人設立は、各手続きにおいて厳しい審査が行われるなど、他国とは少し異なる特徴を持ちます。また、台湾では昨今、就労ビザの取得が厳しくなってきており、申請から取得までに20日~の日数を要します。法人設立はうまくいったものの、就労ビザの取得に手間取り、ビジネス開始が遅れてしまうことが多々あります。
台湾での法人設立は、すべてが順調にいった場合には1ヵ月程度で申請等が完了し、その後1ヵ月ほどかけてビザ申請などを行うため、合計2ヵ月ほどの期間が必要です。ただし、申請が通らなかった場合のことも考えて、少なくとも3~4カ月ほどは確保しておくとよいでしょう。
- 事前準備
- 進出形態の決定
- 会社名の決定と申請
- 外国人投資申請
- 銀行口座の開設と資本金の送金
- 法人登記申請
- 納税番号の取得
- 就労ビザの取得
- 英文名称申請
- 貿易資格申請
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1.事前準備
まずは台湾での法人設立に関する事前リサーチ・準備を進めていきます。台湾に法人設立する目的やメリットなどを計画書にまとめていきましょう。台湾は日本よりも法人税が低い、世界でもトップクラスの親日国などのメリットがありますが、法人税による節税メリットやその他軽減税率に限定した場合、近隣諸国より受けられる恩恵が少なくなります。
そのため、なぜ台湾に進出すべきなのかを明確にしておくことが重要です。もし節税に重点を置いた海外進出であれば、条件を満たすことで法人税が数年間無料になるフィリピンや、様々な軽減税率が受けられるシンガポールなども、進出候補に加えるとよいでしょう。
2.進出形態の決定
台湾への進出が決まったら、進出形態について事前に決めておきましょう。進出形態によって必要な書類や手続きが異なります。また、進出形態によって活動できる内容にも制限がかかります。台湾進出の基本的な形態は以下の3つです。
- 現地法人
- 支店
- 駐在員事務所
現地法人は、台湾で独立した法人を設立する方法です。現地のルールに則って法人設立する必要がありますが、この中で最も自由度が高く、多くの日系企業が選択しています。
支店は、日本本社の支店を台湾に置く方法です。手続きは現地法人よりも容易になる一方で、銀行や弁護士事務所など、利用できるセクターが決まっています。また、日本法人の支店を台湾に置く場合には、日本法人の会社名をそのまま利用する必要があるなどの制限があります。
駐在員事務所は、企業が調査目的で設置するものです。設立に関する手続きが最も容易ですが、営利に関する活動はできない、という制限があります。数年後の進出に向けた準備で設置することはありますが、直接的なビジネスの拠点として設置するのには適していません。
このような事情があることから、台湾進出する多くの日系企業は現地法人を選択します。そのため、これ以降については現地法人の設立に限定して手順を説明していきます。
3.会社名の決定と申請
台湾での法人名を決定し、利用できるかどうかを確認します。他の企業がすでに登録した名称は使えないため、案として3つほど準備しておくと安心です。台湾での法人名は繁体字で作成する必要があります。
名称が決まったら、経済部工商カウンセリングセンターで法人名および営業項目に関する調査・審査を依頼します。名称に問題がなく、他の企業と被っていなければ自社の名称として利用できるため、事前予約をしておきます。ただし、予約しておける期間は6か月(延長可)までのため、その間に法人設立ができるように準備を進めておきましょう。
4.外国人投資申請
外国人が台湾で法人設立する場合には、外国人投資を申請しておく必要があります。経済部投資審議司に必要資料をそろえて申請します。
必要な書類は以下の通りです。
- 外資投資申請書(指定のもの)
- 申請者身分証明
- 代理人委任状
- 代理人身分証明
- 会社名称および営業項目調査申請表(上記の手順で取得した許可もしくは申請表)
詳しくは以下の政府サイトを参考にしてください。
5.銀行口座の開設と資本金の送金
台湾では法人登記を申請する前に、資本金に関する審査を通過する必要があります。台湾の地場銀行もしくは外資系銀行の口座を開設し、資本金を振り込みます。その後、指定の用紙と振込通知書、銀行通帳のコピーなどをそろえて再度経済部投資審議司に審査を依頼します。審査は大体1週間ほどかかります。
6.法人登記申請
続いて、法人登記の申請を行います。資本金の額によって申請先が異なるため、注意してください。
資本金金額 | 申請先 |
---|---|
5億台湾元以上 | 経済部商業発展署 |
5億台湾元未満 | 台北市政府、新北市政府、台中市政府、台南市政府、高雄市政府、桃園市政府、経済部工商カウンセリングセンターのいずれか |
申請に必要な書類は以下の通りです。
- 申請書(指定のもの)
- 投資審議司の投資許可書および資金査定書のコピー
- 主務機関の許可書(許可が必要な業務を行う場合)
- 会社定款のコピー
- 発起人会議事録のコピー
- 取締役会議事録(または取締役同意書)のコピー
- 発起人名簿のコピー
- 取締役・監査役の身分証明書類のコピー
- 取締役・監査役の就任同意書のコピー
- 発起人の身分証明書類のコピー
- 会社が所在する物件の所有権者の同意書のコピーおよび所有権証明書類のコピー
- 公認会計士監査報告書
- 会社設立登記表2通
申請書の作成および提出は、代理人が代行する場合に委任状が必要です。また、代理人になれるのは弁護士か公認会計士に限られています。必要な書類のひな型やリストは以下のサイトで確認できますが、場合によっては上記以外の書類を求められる場合もあるため、注意してください。許可が出るまでには大体2週間ほどかかります。
7.納税番号の取得
台湾での納税で必要となる「税籍番号」と「統一発票」を取得します。法人を管轄する税務局に出向き、所定の用紙に必要事項を記入し、提出します。申請書は簡体語の他、英語の様式もダウンロード可能です。
8.就労ビザの取得
担当者が台湾での就労を許可されたビザを有していない場合には、法人設立後に就労ビザの申請と取得を行う必要があります。台湾では昨今、就労ビザの許可が出にくくなっており、多くの日系企業が苦戦しています。
台湾の就労ビザは、申請したからといってすぐに出してもらえるものではなく、企業の規模や過去の実績、計画書などを細かくチェックされ、その条件に見合う場合にはじめて許可が出ます。申請から許可までは最短で20日ほどかかり、もし不備がある場合には1~2ヵ月かかります。また、条件によってはビザがおりません。
法人設立には成功したものの、就労ビザの取得で苦戦し、事業計画が大幅に遅れてしまうこともあります。台湾で法人設立する際には、法人登記だけではなく、ビザについても並行して準備を進めていくとよいでしょう。もし自社だけで対応が難しければ、早めに代行会社に相談するようにしてください。
9.英文名称申請
台湾国外と頻繁にやりとりをする会社の場合には、英文名称申請をしておくことをお勧めします。台湾では簡体語による社名登録が必要ですが、これだけだと国際的なビジネスにおいて不利になる可能性があります。英文名称を事前に登録しておくことで、状況や相手に応じて使い分けることができるため、非常に便利です。
英文名称の登録は、経済部国際貿易署のサイトにてオンラインで申請することが可能です。
10.貿易資格申請
貿易を伴うビジネスの場合には、貿易資格申請を行う必要があります。貿易資格申請も、英文名称の登録と同じ経済部国際貿易署でオンライン申請できます。
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台湾で法人設立する費用
以前は、台湾で法人設立するのに必要な最低資本金が定められていました。現在はそのルールが撤廃されたため、資本金の金額はごくわずかでも、申請自体は可能です。ただし、会社を運営するのに必要な資本金が確認できない場合には法人設立の許可が出ません。
具体的にどのぐらいあれば問題ないか、という線引きは難しいところですが、50万台湾元(日本円で約240万)ほど準備しておくと、法人設立に必要な各種手続きやオフィスレンタル代、代行依頼費用、ビザ申請などが問題なくカバーできるため、申請が通りやすい傾向にあります。
資本金は多ければ多いほどよい、というわけではありませんが、審査の通りやすさにおいては、ある程度潤沢な資本金を備えた会社の方が有利になります。
台湾で法人設立する際に必要な費用一覧を以下にまとめました。参考にしてください。
項目 | 費用相場 | 詳細 |
---|---|---|
資本金 | 50万台湾元(240万円)~ | 会社運営に必要になる各種費用を事前に現地の銀行に送金する必要あり。最低資本金は定められていないが、50万台湾元以上が推奨されます。 |
オフィス賃料 | 3万台湾元(14万4,000円)~ | オフィスの賃料は、エリアによって大きく異なります。中心部であれば東京都同程度、地方であれば安い値段で借りられます。 |
法人登記にかかる費用 | 5,000台湾元(2万4,000円)程度 | 会社名の提出300台湾元、登記書類の提出と審査1,000台湾元など。全部で計5,000台湾元ほどかかるのが一般的。 |
ビザ申請費用 | 1,500台湾元(7,200円)~ | 就労許可がない状態で働いた場合には罰金が科せられる。 |
人件費や代行費用 | 職種やサービス内容によって異なる | 台湾で現地人材や代理人を雇う費用や、業務を代行依頼する際に発生する報酬など。 |
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台湾の税制事情
台湾の法人税は2017年度までは17%でしたが、段階的に引き上げられ、現在は一律20%です。
2017年度まで…17%
2018年度…18%
2019年度…19%
2020年度以降(現在)…20%
ただし、課税所得額が12万台湾元以下の場合には免税となります。また、企業は条件が合えば、移転価格税制や最低税負担制度などが適用できます。台湾では租税回避対策税制が定められているため、脱税はもちろんのこと、グレーな節税も厳しく取り締まられています。
個人所得税は、累進課税制度が採用されており、所得に対して以下の税率が採用されます。
個人所得(台湾元) | 税率 | 累進差額 |
---|---|---|
0-540,000 | 5% | 0 |
540,001-1,210,000 | 12% | 37,800 |
1,210,001-2,420,000 | 20% | 134,600 |
2,420,001-4,530,000 | 30% | 376,600 |
4,530,001以上 | 40% | 829,600 |
台湾の営業税(日本でいう消費税)は5%で、他国に比べると非常に低い税率に設定されています。ただし、特種物品および労務税と呼ばれる税があり、特種物品とされる不動産や高級物(例えば車や高級家具など)には10%の税が加算されます。
台湾で法人設立する際の注意点
台湾は親日国であり、さらにアクセスも良いことから、多くの日系企業が進出しています。しかしながら、昨今では台湾に進出したものの、早期徹底をせざるを得ない企業も多くあります。
特に顕著なのがコスト面です。以前であれば台湾はコストが安い国として認識されていましたが、昨今の経済成長やインフレにより、物価や人件費が日本とほぼ変わらない水準まで上がっています。以下に台湾進出の前に押さえておきたい注意点をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
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コストが急上昇している
近年、台湾の物価や人件費が高騰しています。台湾の最低時給(月給)は2016年以降毎年引上げが行われており、2024年1月にも月給が4.05%引き上げられました。2016年と比較すると、月給は37.3%、時給は52.5%上昇しています。以前であれば台湾は日本人の半額以下で人材が雇えましたが、現在では日本と同程度の費用が必要になっています。
台湾のインフレと相まって日本企業を苦しめているのが円安です。メディアでは円安ドル高が頻繁に取り上げられますが、円安台湾元高も進行しています。2020年には1台湾元=3.6円程度でしたが、2024年7月時点では1台湾元=4.8円ほどです。これは、為替により、コストが25%ほど増えていることを示します。
台湾のインフレと円安の影響により、これまで日本の半額以下で運営できたものが日本と同程度かかるようになっているため、コスト面を重視したい企業は十分注意する必要があります。
ビザの取得や更新が厳しい
台湾では、就業の可否に関わらず、ビザの取得が年々厳しくなってきています。特に就労ビザについては、法人の売上が年間で300万台湾元以上でないとビザの更新ができない、などのルールがあります。初年度から異国の地で一定額の売上を計上するのは簡単ではありません。
適切なビザがなければ、たとえ会社の経営者だったとしても台湾に滞在できません。経営者がいなくなれば、築き上げたビジネスモデルが崩壊してしまうこともあるでしょう。
台湾で法人設立する際には、適切なシミュレーションを行い、一定額の売上予測にめどをつけた後で実行するようにしてください。
自然災害が多い
台湾は自然災害が非常に多い国です。台風や地震によって国全体が大きな影響を受けることがあります。所有していた不動産が半壊したり、天候のために従業員が通勤できなかったりすることもあるでしょう。
台湾に進出する際には、自然災害によるリスクを理解した上で、適切なリスクマネジメントを行いながら計画、実行するようにしてください。
代理人として現地の弁護士・税理士と契約する必要あり
台湾の法人登記は非常に複雑なため、多くの日系企業は代理人を雇います。台湾で法人登記の代理人になれるのは現地の弁護士もしくは税理士です。そのため、信頼できる代理人を見つけられるかどうかが重要なカギとなります。台湾人は英語に堪能な人が多いですが、すべての弁護士や税理士が英語に精通しているとは限りません。言語が原因で食い違いが生じることもあるでしょう。
もし台湾での法人設立に不安があれば、台湾に精通した法人設立代行会社に相談するのがおすすめです。台湾で必要な手続きをわかりやすく説明してくれるだけでなく、申請に必要な書類の取得や信頼できる代理人の紹介など、幅広いサポートが受けられます。
代行に依頼するのに当然費用が発生しますが、それ以上に業務削減や安心安全の法人設立が可能になります。台湾法人設立を検討中の方は、代行の利用も検討してみるとよいでしょう。