タイで法人設立する手順は?費用やメリットも丁寧に解説

タイ 法人設立-アイキャッチ画像

タイは東南アジアの中で、日系企業の進出数が最も多い国として知られています。タイは外資を積極的に誘致し、様々な軽減措置を設けています。また、国が陸続きになっているため、他国への輸送がしやすいのも魅力の1つ。

しかしながら、近年はインフレが激しく、予定よりも大きなコストに苦しむ日系企業も多いようです。事前準備やリサーチ、戦略性などがますます重要になってきています。

本記事では、タイで法人設立する手順やメリット、注意点などを詳しく説明します。タイ進出を検討中の方はぜひ参考にしてください。

この記事でわかること
  • タイで法人設立するメリット
  • タイで法人設立する手順
  • タイで法人設立する費用
  • タイの税制
  • タイで法人設立する際の注意点

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目次

タイで法人設立するメリット

外務省の海外進出日系企業拠点数調査(2023年)によれば、タイに進出している日系企業の数は5,856件で、東南アジアでトップです。世界で見ても、中国・米国に続く第3位にランクインしています。タイに進出する日系企業が多い理由としては、他国にはない外資向け税制優遇が大きいといえます。

海外進出日系企業拠点数調査 – 外務省 –

外資招致の投資奨励制度

タイ政府は、国内のビジネスがより盛り上がるように、タイ投資委員会(BOI)を設け、各種優遇措置を提供しています。現地ビジネスを保護する観点から内資と外資を分ける国が多いのに対し、タイでは外資もこの優遇措置が受けられるため、多くの外資系企業が利用しています。

優遇措置の内容としては、税制上の恩恵と、税制以外の恩恵、事業セクターや各種条件ごとに定められた独自の恩恵などがあります。特に条件に合致すれば法人税が免除もしくは50%になる点は、タイに進出する企業にとって大きな魅力といえます。

恩恵の種類概要
税制上の恩恵機械類に対する輸入関税の免除/軽減
主要原材料に対する輸入関税の軽減
研究開発目的で輸入される物資に対する輸入関税の免除
奨励されている業種から生じる利益および利益配当に対する法人税の免除
奨励されている高度技術・イノベーション分野から生じる利益および利益配当に対する法人税の免除
法人税の50%免除

輸送費、電気代、水道代の二重軽減
設備導入・建設費用の25%の追加軽減
輸出製品製造目的で輸入する主要原材料に対する輸入関税の免除
税制以外の恩恵外国人に対する投資機会調査目的での入国の許可
投資が奨励されている業種に従事するための熟練労働者および専門技術者の入国の許可
土地所有の許可
外貨の海外送金の許可
事業や形態等によるその他恩恵セクターや内資・外資など、各条件によって受けられる優遇措置が異なる

参考:外資に関する奨励 | タイ – アジア – 国・地域別に見る – ジェトロ

EEC

タイでのビジネスは様々な優遇措置が受けられますが、より大きな優遇措置が受けられるのが東部経済回廊もしくは東部特別開発地区と呼ばれる「EEC」です。チャチューンサオ、チョンブリー、ラヨーンの3県が対象で、EECで特定の条件を満たしたビジネスを展開することで、法人所得税が最大15年間免除されるという非常に大きな恩恵が受けられます。

優遇措置が受けられるセクターは、次世代自動車産業やスマートエレクトロニクス産業、食品加工産業、ロボット産業などに限定されますが、当てはまる場合には積極的に検討するとよいでしょう。

EEC

ASEANのハブ

タイはASEANのハブとして重要な役割を担っている点も、タイ進出が人気の理由です。東南アジアはフィリピンやインドネシアなど海で囲まれている国が多く、輸送の難しさがネックに挙げられることがあります。一方、タイは多くの国と隣接しているため、陸地を使った輸送が可能です。

近隣国から資源を集めたり、シンガポールなどの富裕層が住む国に商品を届けたりするのに便利なロケーションのため、東南アジアの最初の拠点としてタイを選ぶ外資系企業が増えています。また、タイの首都バンコクにある空港は世界各地とつながっているため、国際的なビジネスを行う場所としても優れています。

外国人に対して寛容な文化

「微笑みの国」と呼ばれることもあるタイは、温和で友好的な人が多い国です。タイには仏教徒が多く、徳を積むと来世でよい暮らしができるという考えがあるため、他者とのかかわりを大切にしています。

多文化や価値観に対しても寛容で、外資系企業との共存や外国人とのコミュニケーションが積極的に行われています。タイは親日国ともいわれるように、日本人に対して非常に友好的です。また、アニメや漫画、日本アーティストなども人気で、いたるところで日本フェスタが開催されています。

タイは外資系企業、特に日系企業にとってビジネスや生活がしやすい国といえるでしょう。

タイで法人設立する手順

タイでの法人設立は、多くの手続きがオンラインで実施できるため、ある程度慣れた人であればスムーズに実施できます。事前リサーチを除けば、会社設立にかかる期間は1~2ヵ月程度です。オフィスレンタルなどタイ語でのコミュニケーションが求められる場面もあるため、不安な方は代行会社に早めに依頼するとよいでしょう。

タイで法人設立する手順
  1. 事前リサーチ
  2. 進出形態の決定
  3. 法人名の確認・決定・予約
  4. オフィスレンタル
  5. 基本定款(MOA)の作成
  6. 株主総会の実施
  7. 法人登記
  8. 税務登記と税務番号取得
  9. 就労ビザの申請・取得
  10. 労働許可証の申請・取得

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1.事前リサーチ

まずはタイ進出に向けた事前リサーチを行います。タイにはすでに5,000社を超える日系企業が進出しているため、どのような企業が進出しているのか、経営状況はどうか、競合の有無などを確認していきましょう。

また、法人設立後にどのぐらいのコストが予想されるのかについても丁寧に検討しましょう。タイは近年、急激にインフレが進んでいます。それに伴い人件費も高騰しています。数年前であればコスト減が期待できた案件でも、ここ数年で状況が大きく変わっている可能性もあります。

もし自社だけでの現地リサーチが難しければ、タイ進出のコンサルに強い代行会社にリサーチ全般を依頼するのもよいでしょう。

2.進出形態の決定

タイに進出する形態を決定します。基本的には、タイへの進出形態は以下の3つです。

  • 現地法人
  • 支店
  • 駐在員事務所

現地法人は、タイに独立した法人を設立する方法です。タイは企業に対して様々な税制優遇措置を行っていますが、それらの適用を受けたいのであれば、現地法人一択で問題ないでしょう。

現地法人を設立した場合には、タイの法人運営ルールに則って法人設立手続きや運営報告などを行うことになります。もちろん複雑な手続きも多くありますが、タイの政府機関は外資系企業の対応に慣れているため、やりとりは比較的スムーズに進められるでしょう。

支店は、日本法人の海外支店としてタイに進出する方法です。現地法人と比べると様々な手続きを省けるメリットがある反面、タイ進出の大きなメリットである各種税制優遇には制限がかかります。また、銀行や保険業など、決められたセクターのみしか支店が作れないなどのルールもあるため、事前に確認するとよいでしょう。

駐在員事務所は、一番簡単な進出方法ですが、営利に関する活動が禁止されています。数年後にタイ進出を検討している企業などが、事前調査として設置するのが一般的です。

基本的にはほとんどの企業が現地法人を選ぶことになると思いますが、進出形態によって受けられる税制優遇や準備すべき書類などが決まるため、事前リサーチと同時に検討を行うとよいでしょう。

3.法人名の確認・決定・予約

タイでは、他の企業が社名を登録した時点で、その他企業は同じ社名を利用できません。そのため、もし希望する社名がある場合には、他の企業に利用される前に予約を行う必要があります。

会社名の確認は、商務省事業開発局(DBD)のWebサイトもしくは現地にて行えます。Webサイトはタイ語と英語の2カ国語に対応していますが、画像などはタイ語でしか示されないため、できればタイ語がわかる方と一緒に進めるとよいでしょう。

会社名の予約は30日間まで行えます。その間に法人登記を行うことで、予約した会社名を利用可能です。30日を過ぎた場合には再度予約が必要になるため注意してください。

กรมพัฒนาธุรกิจการค้า(DBD)

4.オフィスレンタル

現地でオフィス探しと契約も進めておきましょう。基本定款や法人登記資料を作成する際に会社所在地を記入する必要があるため、先にオフィス契約を済ませておきます。

EECなど特定のゾーンに限定された税制優遇を利用したい場合には、本社の住所が非常に重要です。条件と合致するオフィスを探すようにしてください。

5.基本定款(MOA)の作成

基本定款(MOA)を作成し、DBDに提出・登記します。基本定款に記載すべき内容は以下の通りです。

  • 会社名
  • 登記資本金、発行株式数、1株当たりの額面価額
  • 設立目的
  • 発起人の氏名、住所、職業、国籍、署名および各人が出資する株式数
  • 登記した会社事務所が所在する県名
  • 取締役の負う責任

タイの現地人でも慣れない定款を作成するのは難しい作業のため、弁護士に依頼して作成してもらうのが一般的です。もし基本定款の作成が難しい場合には、タイの基本定款に精通した専門家や代行を頼るとよいでしょう。

基本定款の登記には500バーツかかります。会社のセクターや規模、本社所在地などによって費用が異なる場合があります。

6.株主総会の実施

法人登記の前に、株主総会(設立総会)の実施が義務付けられています。ここでは、定款や登記予定登記の確認、取締役・監査人の決定などが行われます。監査人はタイで認定を受けた公認会計士を置く必要があるため、注意してください。

7.法人登記

株主総会の実施後3カ月以内に、法人登記を行います。登記局に出向き、登記費用5,000バーツと必要情報・書類を提出することで完了します。求められる情報や書類は以下の通りです。

  • 株主や発起人の各種情報
  • 代表取締役や監査人の各種情報
  • 代表取締役のサイン
  • 本社の住所
  • 付属定款
  • 初回資本金払込証明 ほか

8.税務登記と税務番号取得

タイ国内で法人設立した場合には、法人登記と同時に税務登記も実施されます。DBDから受け取った13桁の番号がタックス番号となるため、大切に保管しましょう。

9.就労ビザの申請・取得

法人設立だけであれば就労ビザは必要ありませんが、実際に事業を行う上ではタイ国内での就労が許可されたビザを申請、取得する必要があります。まずは90日間の滞在が許可されたノン・イミグラントビザ(Non-Immigrant Visa)で入国し、その間に法人設立の手続きをすまし、ビザの延長申請を行うのが一般的です。

ビザは、タイ各地にあるイミグレーションか、日本国内にあるタイ大使館で申請できます。必要書類は以下の通りですが、利用する労働省雇用局によって要求される書類が異なる場合があるため、それに従うようにしてください。一度イミグレーションかタイ大使館に訪問し、必要な書類リストを取得しておくことをおすすめします。

  • パスポート
  • 写真(枚数やサイズは要確認)
  • 雇用・職歴証明、卒業証明書(英文)
  • 健康診断書(タイの医師によるもの)
  • 会社登記証書一式
  • 年次所得申告書(新会社は株主リストを代用)
  • 株主リスト
  • 社会保険料支払い申告書の写し
  • その他要求された書類各種

10.労働許可証の申請・取得

タイでは、就労が可能なビザに加え、外国人は労働許可証を取得する必要があります。労働許可証の申請は、会社所在地を管轄する労働省にて行います。申請書類や会社の状況などが審査され、3カ月、6カ月、1年、2年の期間で労働許可が降ります。期間がそれほど長くないため、長期で働くためには複数回更新を行う必要があります。

タイで法人設立する費用

タイでの法人設立に必要な項目と費用は以下の通りです。近年はオフィスレンタル費と人件費が高騰しているため、最新の情報を参考にするようにしてください。

項目費用概要
定款登記および法人登記5500バーツ
(約2.5万円)
定款および法人登記を行う際に支払う費用。企業のセクターなどや資本金などによって多少異なる場合あり。
オフィス賃貸料条件によって異なる人気のエリアは月額で1,000~1,500バーツ/㎡程度。地方では500バーツ/㎡のオフィスも見つかる。
人件費3万バーツ~
(約13万円)
最低賃金は1日あたり370バーツだが、専門性の高い仕事を依頼する場合には3万バーツ~。昨今はタイ現地で優秀な人材が雇用できずに苦しむ日系企業が増えてきている。
ビザ・労働許可証申請費5,000バーツ~
(約2.2万円)
労働許可証の新規・更新が3,100バーツ~、ビザ申請が1,900バーツ~。期間によっても異なる。労働許可証の申請はタイ国内で発行された健康診断書も必要。
資本金100万バーツ~
(約446万円)
外資系企業が現地法人を設立する際の最低資本金は100万バーツ。セクターやゾーンなどによっても異なる。

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タイの税制

タイの法人税は一律20%です。法人税の申告納税は2回で、中間申告と確定申告があります。法人が一定の条件に当てはまる場合には各種軽減税率が適用できます。

2016年3月に法人税率が引き下げられ、2016年1月1日以降に開始する会計年度については、法人税率が原則恒久的に20%となった。

税制 | タイ – アジア – 国・地域別に見る – ジェトロ

個人所得税は累進課税となっており、0~35%の税率が適用されます。

課税所得税率
0~150,000バーツ0%
150,000超~300,000バーツ5%
300,000超~500,000バーツ10%
500,000超~750,000バーツ15%
750,000超~1,000,000バーツ20%
1,000,000超~2,000,000バーツ25%
2,000,000超~5,000,000バーツ30%
5,000,000超バーツ35%

日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)は、タイでは7%に定められています。ただし、以下に該当する場合にはVATは適用されません。

  • 物品の輸出
  • 外国において、完全に使用されるサービスの提供
  • 法人として設立された事業者が行う航空機または船舶による国際輸送
  • 関税法に従う保税倉庫間または輸出加工区間の、事業者間の物品やサービスの提供

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タイで法人設立する際の注意点

タイは、税制面で大きな優遇が期待でき、また外資系企業が進出しやすい基盤が整っている国です。しかしながら昨今は、経済発展とともに起こった急激なインフレにより、物価や人件費が高騰しています。また、2024年7月時点では円安/バーツ高が進んでおり、企業のセクターによってはかなり苦しい状況に陥っています。

タイ進出を検討している方に向けた注意点をまとめましたので、ぜひ事前に確認および対策を練るようにしてください。

コストの上昇

タイでは物価上昇と人件費の高騰が顕著です。例えば、数年前であれば、タイの物価は日本の1/3~1/2ほどでしたが、昨今では日本よりも少し安い程度です。日本は低価格で高品質の物品が手に入るため、同程度の品質を求めると、タイの方が高い場合も多々あります。

急激なインフレに対応するために、タイ政府はここ数年で複数回、最低給与の引上げを実施しています。日本資本の会社であれば、最低給与で人材を雇うということはまずありませんが、高学歴人材の給与もこれに比例して上昇しています。タイには様々な国の企業が集まっているため、給与が低く、ルールも厳しい日系企業に勤務するのを避ける動きも一部みられます。

さらに追い打ちをかけているのが円安です。2020年7月は1バーツ=3.4円ほどでしたが、2024年7月は1バーツ=4.45円ほど。つまり為替によって、タイでの買い物がすべて30%程度高くなっていることを意味します。円安とインフレのダブルパンチにより、タイでの生活費や事業費は約2倍になっています。

バーツで収入が得られるビジネスであればチャンスといえますが、ビジネスの種類によってはかなりのコスト高になってしまう可能性があるため、注意が必要です。

言葉や文化の違い

タイの法人関連機関は、外資の対応も多いため、英語が通じる場合もあります。しかしながら、私生活の場では、英語が通じる場所は限られており、言葉が原因で事業がうまく進まないことも多々あります。

また、タイ人は友好的な人が多い反面、自分のペースを持つ人が多く、ビジネスにおいてはモチベーションが低い、時間にルーズなどと見えてしまうこともあるようです。

タイでビジネスを行う以上、日本式のやり方をそのまま持ってくるだけではうまくいきません。社内文化を浸透させたり、場合によっては日本のビジネスマナーを教育したりできる現地マネージャーの存在も重要です。

労働許可証でつまづく企業が多い

タイでの法人設立は、近隣国と比較すると比較的容易です。しかしながら昨今、外国人がらみの悪徳なビジネスも増えてきているため、外国人の滞在や就労に関するチェックが厳しくなっています。

タイの法人設立はDBDが担当します。一方で、労働許可証は地域の労働局、就労ビザはイミグレーションが管轄です。昨今、DBDでの法人登記はスムーズに実施できたものの、労働許可証や就労ビザがおりずビジネスを開始できない事例が発生しています。

そのため、法人登記だけに対応している専門家や代行に依頼するのは少し危険です。タイで働くために必須の労働許可証や就労ビザの取得にも精通し、トータルで対応してくれる代行会社を優先的に選ぶようにしましょう。

タイでの法人設立は代行会社利用がおすすめ

タイでの法人設立は比較的容易な部類に入るため、中には知り合いのタイ人にサポートを依頼し、法人設立を目指す方もいるかもしれません。確かに法人登記までであれば、ある程度タイ語が話せる人がいれば可能です。

ただしタイで怖いのは、労働許可証の取得や税制申告などで大きな問題が発生する場合があること。法人登記の申請内容にあいまいな箇所があり何カ月も労働許可証がおりなかったり、資本金の不備により優遇税制が適用できなかったりする可能性があります。

タイでの法人設立そして運営をスムーズに実施したければ、タイの法人設立に強い代行会社に相談するのがおすすめです。タイはここ数年だけみても、法人設立や運営、軽減税率の適用に関するルールが変化しています。そのため、タイに精通した、信頼できる代行会社を選ぶことが成功への近道といえます。

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