インドネシアは「世界で4位」となる2億7,000万人以上の人口を擁する東南アジア最大の国です。近年は毎年5%程度の経済成長を遂げており、「経済大国」として認知されるようになってきました。
日本企業のインドネシア進出も頻繁に行われていますが、言語や宗教、文化の違いによりうまくいかず、早期に撤退する事例もよく聞きます。他の国と比べると、進出のハードルは少し高めといえるかもしれません。
本記事では、インドネシアで法人設立する手順や費用、メリット、注意点などを丁寧に説明いたします。インドネシア進出をご検討の方はぜひ最後までお読みください。
- インドネシアでの法人設立手順と詳細
- インドネシアでの法人設立費用
- インドネシアの税制
- インドネシアで法人設立するメリットと注意点
インドネシアで法人設立するメリット
インドネシアは東南アジアで最も人口が多い国であり、今後も人口が増えていくと考えられています。また宗教がイスラム教であるため、日本や他の国とは異なる商品やサービスがヒットする可能性もあります。
巨大市場
国連人口基金が2024年3月に発表したインドネシアの人口は「2億7,980万人」です。これはインド、中国、アメリカに次ぐ第4位です。インドネシアでは毎年300万人ほど人口が増えているため、2030年代には3億人を突破する見通し。また、購買意欲の高い20~30代の若者が多いため、SNSなどで話題になれば一躍ヒット商品になる可能性も秘めています。
ここ数年の経済成長率も5~6%前後で推移しており、この傾向は今後もしばらくは続くだろうと考えられています。インドネシアは現時点でも魅力的なマーケットですが、今後ますます注目を浴びるようになるでしょう。
イスラム教がメイン
インドネシアの主な宗教は「イスラム教」です。居住者の9割弱がイスラム教を信仰しています。イスラム教は豚肉が禁止、女性は肌や髪を露出しない、一日に5回の礼拝を実施するなどのルールがあります。
一見すると文化が大きく異なるため、ビジネスを成功させるのが困難に感じますが、逆に言えば国民の行動や関心が絞られているため、商品やサービスなどを考案しやすいというメリットもあります。例えば、日本の浴衣などをイスラム教の女性でも楽しめるように配慮した商品を作れば、親日家の多いインドネシアでは大きなヒットになるかもしれません。
物価が安い
インドネシアの物価は日本と比べて安く、生活に必要なものは半額ぐらいで購入できます。また人件費も安く、日本人の3分の1ほどの費用で従業員1名を雇用できます。そのため、人件費や材料費の削減により、利益を大幅に増加させることも可能です。
しかしながら、日本と同じ生活レベルや日本食(輸入食品)などを求めた場合には日本よりも高くなる場合もあるため、注意しましょう。
親日家が多い
インドネシアは親日家が多い国の1つです。町を歩けば至るところに日本食レストランがあり賑わいを見せています。また、日本のアニメはインドネシアでも人気で、ドラゴンボールや名探偵コナンなどのグッズを見かけることも多々あります。
「日本人だから」という理由で地元の人から嫌われたり差別されたりすることはないため、安心してビジネスに注力できます。
インドネシアで法人設立する手順
インドネシアで法人設立する手順を紹介します。インドネシアでは外資か内資かによって手続きや期間が大きく異なります。
法人設立がしやすいのは内資による現地法人設立で、期間は2ヵ月ほどかかります。流れはインドネシア人が法人設立する方法とほぼ同じです。一方で外資の場合には4ヵ月程度かかるのが一般的。書類や手続きも複雑になります。
- 事前リサーチ
- 進出形態の決定
- 登記に必要な情報の準備
- 法人登記
- 事業基本番号(NIB)の取得
- 事業許認可の取得
- 環境承認
- 建物建築承認(PBG)と建物機能適正認証(SLF)
- その他必要な申請
今回は、最も一般的な内資によるインドネシア現地法人設立の手順を見ていきます。
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1.事前リサーチ
まずはインドネシアでのビジネスに関してリサーチを行います。日本から進出した企業の状況や競合調査、ビジネス運営に必要な原材料費・輸送費・人件費、地域の特色や文化、生活レベルなどを確認していきます。理想なのは設立者が実際に現地で確認する方法ですが、難しい場合にはインドネシア国内にある代行会社に依頼するのもよいでしょう。
海外法人設立は一度スタートを切ってしまうと途中でやめるのが難しくなるため、事前リサーチを丁寧に行い、ビジネスチャンスがあるかどうかを確認するようにしてください。
2.進出形態の決定
インドネシアへの進出形態を決定します。代表的なものは「現地法人」「支店」「駐在員事務所」の3つです。日本企業や個人がインドネシアに進出する際には、現地法人を設立するのが一般的です。
現地法人は、インドネシアで独立した法人を設立する方法で、インドネシア資本との合弁で設立する方法と外資100%で設立する方法があります。日本法人と完全に切り離したものとして運用できるため、自由度は高くなります。一方で、インドネシアのルールに則って会社運営をする必要がある、手続きが複雑などのデメリットもあります。
支店は、日本法人の関連会社としてインドネシアに会社を設立する方法です。現地法人と比べると手続きが少なく進出しやすい形態といえますが、インドネシアでは保険業や銀行業など一部の業種のみが許可されているため、事前に自社のセクター等を確認する必要があります。
駐在員事務所は、営利を目的としない事務所をインドネシア国内に設置するものです。大企業がインドネシア進出を行う前などに、現地でのリサーチや研究を目的として設置します。3つの中では一番設置しやすい形態ですが、営利活動ができないため、商品やサービスの販売はできない点に注意が必要です。
3.登記に必要な情報の準備
いよいよ法人設立の具体的な作業に入ります。インドネシアではまず、法人の登記を申請する必要があります。そのために必要な以下の情報や資料を集めておきましょう。
- 会社名の決定
- 定款の作成(公証人の下で実施する必要あり)
- 会社所在地の証明書
- 納税番号の取得
- 銀行口座の開設
インドネシアで法人登記を行う際には、税務署で取得できる納税番号や銀行口座の確認が求められます。法人登記前にこれらを得るには「投資調整庁」に必要書類を提出し、投資登録を済ませておく必要があります。
4.法人登記
法務人権省に出向き、法人登記に必要な資料を提出し、法務人権大臣承認書を取得します。これにより、法人登記が完了したことになります。
近年ではオンラインによる申請が発達しており、公証人が直接オンラインで申請する方法もあります。この場合には、上記のような手順にならない場合があるため、専門家の指示をよく聞いた上で対応するようにしてください。
5.事業基本番号(NIB)の取得
NIBと呼ばれる事業基本番号を取得する必要があります。投資調整庁(BKPM)のウェブサイトを開き、オンライン・シングル・サブミッション(OSS)に移動し、登録を済ませてください。BKPMはインドネシア語のほか、英語でも利用可能です。
その後、OSSシステム上で事業者データや事業活動計画を記載し、申請が承認されるとNIBが取得できます。NIBやOSSは法人設立時だけでなく、運営時における報告などにも利用するため、情報を大切に保管しておいてください。
6.事業許認可の取得
OSSに事業内容を打ち込むと、システムがビジネスのリスクレベルを判定し、それを共有してくれます。インドネシアでビジネスをスタートさせるには、このリスクレベルに対応した事業許認可を取得する必要があります。リスクレベルは以下の4つに分かれています。
- 低
- 中の低
- 中の高
- 高
リスクが低の場合には、NIBのみ取得していれば、特別な事業許認可を取得しなくてもビジネスが行えます。一方で、それ以外のリスクにおいては、基準認証や許可申請が必要になるため、リスクが共有された後、適切な対応を図る必要があります。
リスク高の場合に必要な対応は以下の通りです。
① 環境影響分析(Amdal)が義務付けられている事業活動は環境承認(=環境適正決定)を取得
インドネシア 外国企業の会社設立手続き・必要書類 「外国企業の会社設立手続き・必要書類
UKL-UPLが義務付けられている事業活動は、OSSシステム上でUKL-UPLフォームと環境管理能力表明に記入して、環境管理能力表明承認を受ける
② 未発効ステータスの許可を取得して、事業準備を開始
③ 環境承認、PBGとSLF、その他各省庁が事業活動ごとに定める基準を、定められた期間内に履行。期間の定めがない場合、稼働予想日より90日前までに履行のこと。
④ 地方政府や経済特区管理庁等の検査を受け、許可が発効ステータスに変わる。これにより事業活動が開始できる。
⑤ 製品認証が必要な場合は、OSSシステムを通じて申請し、製品基準認証を取得する
リスクが高いと判断された場合には必要な対応が複雑になるため、困った場合には早めに代行会社などに相談するとよいでしょう。
7.環境承認
インドネシアではビジネスにおいて環境配慮が重視されており、事業内容によっては「環境承認の取得」が必要です。環境承認が必要かどうかは、OSSに記載した事業内容によって判断されます。
環境承認が必要と判断された場合には、通知に従って対応を図るようにしましょう。いくつかの書類等を準備し、OSS内で提出するのが一般的です。詳しくは環境林業省のWebサイトを確認してください。
8.建物建築承認(PBG)と建物機能適正認証(SLF)
環境承認と同様に、OSSに記載した内容や立地、空間情報、設置面積などに関する調査も行われます。これは事業形態やオフィスのサイズなどによって必要かどうかが変わります。もし通知を受けた際には対応するようにしてください。
9.その他必要な申請
ビジネスを行う上で、以下の内容が必要になる場合には、OSS上もしくは関係省庁にて申請や手続きを行います。
その他の許可・申請 | 概要 |
---|---|
外国人雇用の許可 | 外国人を雇用する場合には、外国人労働者雇用計画書を作成して提出する |
資本財、原材料の輸入便宜 | 生産設備などの資本財および当初の生産に必要な原材料・物品の輸入にかかる関税の免除便宜を申請可能 |
立地許可 | 賃貸の場合には不要。用地を購入する際に必要になる場合がある |
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インドネシアで法人設立する際の費用
インドネシアでの法人登記にかかる費用は15万円ほどです。また、多くの作業がOSS上で実施できるため、関係官庁に何度も足を運ぶなどの手間を省くことができます。
しかしながら、インドネシアでは最低資本金が定められているため注意しましょう。内資による法人設立のハードルは低いものの、外資100%の場合にはかなり大きな資本金とその振込が求められます。
内資法人 | 外資法人 | |
---|---|---|
最低振込資本 | 1,250万ルピア (約12万円) | 100億ルピア (約9,700万円) |
最低投資額 | 5,000万ルピア (約48万円) | 100億ルピア (約9,700万円) |
インドネシアの税率
インドネシアの法人税は以下の通りです。
法人税率は、22%。
税制 | インドネシア – アジア – 国・地域別に見る – ジェトロ
- 株式の40%以上を公開している上場会社の場合、さらに3%引き下げ。
- 年間売上高500億ルピアまでの小企業の場合、48億ルピアまでの課税所得に対して、法人税率の2分の1。
- 年間売上高48億ルピア以下の企業の場合、ファイナルタックスで毎月の売上高に対して0.5%課税。
インドネシアでは付加価値税(日本における消費税)も導入されており、2024年6月時点では11%ですが、2025年1月1日からは12%に引き上げられます。
インドネシアの個人所得税は5~35%に設定されており、所得が増えると税率が大きくなる累進課税制度が採用されています。
年間所得 | 税率 |
---|---|
6,000万ルピア以下 | 5% |
6,000万ルピア超2億5,000万ルピア以下 | 15% |
2億5,000万ルピア超5億ルピア以下 | 25% |
5億ルピア超50億ルピア以下 | 30% |
50 億ルピア超 | 35% |
インドネシアで法人設立する際の注意点
インドネシアは巨大な市場が広がっている、今後も経済成長が予想されている、独自の文化を持つため焦点化しやすい、などのメリットがあります。一方で、インドネシアで法人設立するデメリットや注意点もいくつかあります。特に外資規制が厳しい、英語が通じない場所が多いなどは重要なため、進出前に必ず確認しておきましょう。
外資規制が厳しい
インドネシアは、国内産業を保護する観点から、他国と比べて外資規制を厳しく行っています。
例えば、2024年時点では、テクノロジーを必要としない業種や伝統を重視する業務などからなる「60業種」が外資による事業不可になっています。これらの業種に当てはまる場合、インドネシアで外資による法人設立はできません。
また、インドネシアでは46もの業種が外資規制の対象になっています。日本企業が海外進出で選ぶことの多いアウトソーシングや施設・設備建設、サプライチェーン、フランチャイズなどの業種・形態も外資規制の対象です。
詳しくはインドネシア政府の以下サイトから確認できます(ただし言語はインドネシア語です)。
インフラが脆弱
インドネシアではインフラの脆弱性に遭遇することもあります。
特に弱いのは交通インフラです。都市部では交通インフラの整備が優先して実施されているものの、都市部の人口・車両増の問題を解決するまでには至らず、連日のように大規模な渋滞が発生しています。一方、地方にいくと整備されていない道も多く、豪雨の際には大規模な洪水が発生することもしばしば。
また、ITインフラに関しては、ネットスピードが東南アジアでワースト3と評価されるなど、ネットワークの状況はよくありません。簡単なメッセージや写真のやりとりぐらいは問題ないものの、常時ネットを利用したビジネスを行う際には、かなり強固なネット環境を構築する必要があります。
宗教や文化が異なる
インドネシアに住む人々の大半がイスラム教を信仰しています。宗教やそれによる価値観の違いは、ビジネス面において障害となる可能性もあります。
例えば、イスラム教徒は1日に5回の礼拝を行います。急ぎの仕事をお願いしても、礼拝を優先したため、官僚が遅くなってしまうこともあるでしょう。また、無宗教が多い日本人は、どうしても神に関することを軽視しがちです。それが原因で口論になることもあるかもしれません。
宗教の違いは私生活だけでなく、ビジネス面にも影響してくる可能性があるため、自社のビジネスをインドネシアで適切に実施できるかどうかはよく検討する必要があります。
メイン言語はインドネシア語
インドネシアの公用語は「インドネシア語」です。英語が話せる人は増えてきていますが、基本的にはインドネシア語でコミュニケーションを図ります。法人設立に関する政府サイトなども、インドネシア語が主です(英語での閲覧も可能な場合あり)。
昨今であれば、翻訳機能を用いればネット上のインドネシア語をある程度理解することは可能です。ただし、情報が紙面やPDFにしかない場合などは、情報を理解するだけでも多くの時間やコストが必要になるでしょう。
インドネシア語が話せる人がいない場合には、法人設立や運営の面で大きなマイナスになる可能性があります。その場合にはインドネシア語にも堪能な代行に依頼するなどの対応を図るのがおすすめです。
インドネシアでの会社設立は代行会社利用がおすすめ
インドネシアでは外資優遇がなかったり、公用語がインドネシア語であったりすることから、外国人が法人設立するハードルは高いといえます。また、法人設立は何とかできたとしても、その後適切にビジネスを実施したり、会計・税務に関する手続きをしたりするには、インドネシア(語)に堪能な人の助けを借りる必要があるでしょう。
もし頼める人がいない場合には、代行会社に相談するのがおすすめです。インドネシアに強い代行会社であれば、複雑な手続きをスムーズに進めてくれるでしょう。もちろん依頼に費用が発生しますが、総合的に見た場合、時間やコスト面でプラスになる場合も多くあります。
ただし、代行会社の中には悪質な会社や、質の低い会社も存在するため、信頼できる代行会社探しに力を入れるとよいでしょう。