日本経済縮小が様々な形で報告される昨今、将来を見据えて海外法人設立を検討している方も多いことでしょう。
日本では2050年には人口1億人を下回ると予想されていますが、世界では人口は増え続け、2050年には97億人を突破すると考えられています。将来の成功のためには、できるだけ早く「日本から世界」に視点を変える必要があります。
そこで本記事では、海外法人を設立するメリットとデメリットを詳しく説明いたします。海外法人に興味のある方はぜひ参考にしてください。
- 海外法人設立のメリット
- 海外法人設立のデメリットやリスク
- 海外法人設立前に検討するべきこと
海外法人設立のメリット10選
2024年は歴史的な円安が進んでいますが、その中でも好調を維持できている企業の多くは海外向けに商品やサービスを提供しています。今後は日本の市場規模がますます縮小すると考えられていることからも、海外法人を設立し、世界をターゲットにビジネスを行う意味は大きいといえるでしょう。
海外法人を設立するメリットは以下の通りです。
- ビジネスチャンス拡大
- 売上高増加
- 節税対策
- 為替リスクヘッジ
- コスト削減
- ブランドイメージ向上
- 新たな顧客層取り込み
- 競合の少なさ
- 新しい技術・戦略の獲得
- 事業および人材の国際化
1.ビジネスチャンス拡大
海外法人を設立することで、日本だけでなく、世界をターゲットにビジネスを展開できます。現在(2024年)と将来(2050年)における日本と世界の人口(および予測)は以下の通りです。
2024年 | 2050年 | |
---|---|---|
日本 | 1億2,260万人 | 9,515万人 |
世界 | 81億1,900万人 | 97億人 |
昨今のニュースによれば、日本の出生率は予想よりも低い値で推移していることから、2050年には上記の人口よりもはるかに少なくなっている可能性があります。一方で、世界の人口については、アジアやアフリカを中心に伸び続けると予想されています。
日本は人口減により顧客数が減っていきます。これから企業の淘汰が進むことは間違いないでしょう。一方で、世界であれば、まだまだビジネスチャンスが豊富です。できる限り早く海外を視野に入れた経営に舵を切るのが、今後成功するための秘訣といえます。
2.売上高増加
海外に法人を設立すれば、単純に考えて売上高は増加します。日本と同程度の売上が期待できる国に進出すれば、それだけで売上高は2倍になります。当然ながら各種負担も増えますが、海外拠点は日本本社よりも低コストで運営できる場合もあるため、2倍以上の利益を得ることも可能です。
売上高 | 経費 | 利益 | |
---|---|---|---|
日本 | 5,000万円 | 3,000万円 | 2,000万円 |
海外 | 5,000万円 | 2,000万円 | 3,000万円 |
もちろん、この表のように単純にいかないことがほとんどです。しかしながら、海外法人設立はこのように、売上高や利益を大きく増やせる可能性を秘めています。
3.節税対策
海外法人は、日本と比べて低い法人税で会社経営できる場合があります。例えば、日本企業の進出先で人気のシンガポールは、法人税が一律17%で、さらに様々な税制優遇が受けられます。また、昨今芸能人や起業家がこぞって移住することで知られているドバイの法人税は9%です。
さらに、フィリピンのように外資優遇政策を行っている国もあります。フィリピンでは一定の条件を満たせば、数年間の法人税が0%になります。
世界には、日本よりも法人税が低い国が多くあります。それらの国で利益を上げることができれば、税引利益の最大化が見込めます。
国 | 法人税 | 税引利益 |
---|---|---|
日本 | 23.2% | 7,680万円 |
シンガポール | 17% | 8,300万円 |
ドバイ | 9% | 9,100万円 |
フィリピン (PEZAを利用した場合) | 0% | 1億円 |
4.為替リスクヘッジ
為替による日本人の資産減は、現在大きな現実味を帯びています。ドル円相場は、2021年頃までは1ドル=100~110円ほどで推移していましたが、2024年6月には、ここ十数年で最安となる1ドル=160円を突破しました。これは、日本円の価値が世界から見て下がっていることを意味します。
現在の円安は日米金利差の影響が大きいといわれていますが、日銀がマイナス金利を解除し、金利の引き上げを行っても依然として進行していることから、日本の国力低下が主な原因ではないかとの憶測が拡大しています。
通貨の暴落で知られるトルコリラは、2024年時点で、対ドルの価値が25分の1ほどまで大暴落しています。これが日本で発生する可能性も視野に入れておく必要があります。
もし今後も円安が進むのであれば、日本円だけの稼ぎでは世界の成長についていけません。為替リスクヘッジの観点からも、外貨を稼げる手段を検討する必要があります。そのための方法の1つとして、海外法人設立による外貨獲得は非常に有効です。
5.コスト削減
海外法人の設立は、進出した国によっては大幅なコスト削減が実現できます。例えば、人件費が安いアジアやアフリカなどで法人設立を行えば、日本と比べて数分の1のコストで若くて活気のある人材を雇用できます。商品の主となる材料が安い国を選べば、原価を大幅に下げられるでしょう。
日本では人口減少や生産人口の減少などにより、人材確保が難しくなっています。一方海外であれば、国によっては優秀な人材が比較的簡単に獲得できる可能性があります。ただし、海外でも人材や材料費の高騰が続いているため、事前のリサーチは丁寧に行うとよいでしょう。
国 | 売上高 | 材料費 | 人件費 | 利益 |
---|---|---|---|---|
日本 | 5,000万円 | 2,000万円 | 2,000万円 | 1,000万円 |
人件費が安い国A | 5,000万円 | 2,000万円 | 700万円 | 2,300万円 |
材料費が安い国B | 5,000万円 | 1,000万円 | 2,000万円 | 2,000万円 |
全コストが安い国C | 5,000万円 | 1,000万円 | 1,000万円 | 3,000万円 |
6.ブランドイメージ向上
海外に法人や支店があると、国際的な会社、世界に向けて価値を提供している会社といったイメージを持たれます。消費者の中には、日本国内のみで展開している企業よりも、海外に向けて新しい価値や機能を追加している企業の方が魅力的に見えることもあるようです。国際的な業務や駐在案件などに興味を持ち、応募してくる就職希望者も増えてくることでしょう。
7.新たな顧客層取り込み
海外に展開した場合、日本とは全く異なるタイプの顧客層を取り組むことも可能です。例えば、日本では競合が多すぎて長年の付き合いがある高齢者にしか売れない商品でも、海外であれば目新しさのために若手にヒットし、SNS経由で多くの注文が入る可能性もあります。
日本で顧客が獲得できずに行き詰っている、商品やサービスの質や目新しさで競合に勝てないといった場合でも、海外法人設立によってターゲットを外国人に変えることで、顧客や売上が大幅に増えることもあります。
8.競合の少なさ
日本では主な顧客となる日本人が減少し始めたにも関わらず、いまだに多くの同業他社が存在しています。数年後にはさらに人口減に拍車がかかり、競合間の争いはますます激しくなることでしょう。
一方で、海外に出れば、競合の数は一気に減ります。日本食レストランがない地域にお店を構えれば、それだけで独自性の高いレストランに仕上げられます。日本商品が少ない地域に越境ECを立ち上げれば、日本製の高品質アイテムを欲しがる富裕層の中で一躍人気になるでしょう。
特定の地域では日本企業が多く進出している現状がありますが、世界にはまだまだ競合が少ないエリアが多く存在します。これをうまく利用することで、売上増が見込めます。
9.新しい技術・戦略の獲得
海外に進出することで、新しい技術や戦略、気づきなどが得られます。例えば、日本ではFacebookを活用した企業マーケティングはそれほど行われていませんが、一部の国では会社ホームページからコンタクトフォーム、最新情報の提供までをFacebookだけで行い、ほとんどお金をかけずにマーケティングから顧客対応まで成功している国もあります。
また、海外であれば、日本よりも先に世界の最新テクノロジーやAI、マーケティングノウハウが入ってくるため、日本の競合と差別化するのにも適しています。
10.事業および人材の国際化
多くの企業は、海外進出が今後必須だと思いながらも、海外進出ノウハウや担当できる人材がいないため断念しています。もし一度でも海外進出をやり遂げることができたら、自社内に貴重なノウハウが蓄積されるため、その後の海外展開は非常にやりやすくなります。
今後よいアイデアを思いついた際にためらわずに即座に行動に移せるようになるため、ビジネスチャンスを確実にものにできる会社へと成長するでしょう。
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海外法人設立のデメリットとリスク10選
上記で見てきたように、海外法人設立には様々なメリットがあります。しかしながら、同時にデメリットやリスクもあります。特に海外における税制は、専門家であっても非常に難しいとされる分野です。初心者であればすべてを理解して行うのは困難なため、早めに専門家に相談するなどの対策を図るとよいでしょう。
- 設立・運営面での複雑さ
- 文化や習慣の違い
- 法律の理解(特に税制面)
- 言語の壁
- ビジネスマナーや就業観
- 追徴課税のリスク
- 法人ライセンスの停止
- コスト増
- 時差によるコミュニケーション問題
- 為替リスク
1.設立・運営面での複雑さ
法人設立の手続きや会社運営は、日本であっても非常に複雑な作業です。海外であれば、法律や言語、文化、慣習などがすべて異なるため、日本での法人設立よりも難易度は増します。特に気をつけたいのが設立後の運営や管理です。設立後に現地の共同経営者に会社を乗っ取られた、という話も聞きます。
海外での法人設立は、日本以上に時間をかけて慎重に実施する必要があります。もし現地でのノウハウが不足していると感じたら、早めに専門家に相談するようにしましょう。
2.文化や習慣の違い
日本とは文化や習慣が大きく異なる国でビジネスを成功させるのは簡単ではありません。例えばSNSマーケティング戦略1つとってみても、日本で人気のLINEやX(旧Twitter)は海外ではあまり利用されておらず、成果につながらないこともしばしば。また、日本のようにバスや電車通勤が一般的でない場合には、交通広告や看板広告が活かせません。
進出する国の文化や習慣をよく理解した上でマーケティングを実施する必要がありますが、現地での経験不足のため効果のないマーケティングを行い、無駄な支出を増やしてしまう企業もあります。
3.法律の理解(特に税制面)
国が違えば法律も異なります。日本では問題なかったことが、海外では大問題となる場合もしばしば。法人設立および運営面で特に気をつけたいのが税制面の違いです。海外では外国語で書かれた複雑な税制ルールを正しく理解し、毎年正しく申請や支払いを行う必要があります。
英語であれば文書を解読することも可能ですが、まったく読めない言語での文章を渡された場合には解読するだけでも膨大なコストを要します。
4.言語の壁
海外で法人設立を行うには、書面や対人でのコミュニケーションを外国語で行う必要があります。英語が公用語の国であれば対応できる人も多くいますが、それ以外の言語だと、言語の面から難易度が大きく増します。
もし自社にターゲット国の言語に強い人材がいなければ、対応できる人を早めに雇う、もしくは代行を探すなど対策を図るようにしましょう。
5.ビジネスマナーや就業観
日本は独自のビジネスマナーや就業観を持つ国として知られています。海外の人に日本人の印象を聞くと、いつも働いている印象、という回答が返ってくることもしばしば。
日本は世界的に見て、長時間労働、時間を守る、上下関係が厳しい、飲み会文化など、独自のビジネスマナーや文化が多くあります。海外法人設立時に、このような日本独特の文化を強く要求すると、外国人から反発が出ることもあるため、慎重に行う必要があります。
6.追徴課税のリスク
日本では、法人や個人が不適切、もしくは悪質な税申告を行った際に、追徴課税が科せられます。海外でも同様に、税申告が国のルールと異なって行われた際に税務署からのチェックが入り、場合によっては高額なペナルティが加わった追徴課税の支払いを求められます。
外資系企業は税務申告を間違えやすいことから、国によっては税務署のチェックが頻繁に入ることもあります。これを避ける一番の方法は、適切な知識を備えた人材が税務業務に携わること。会計や税務にはその国の税制ノウハウを持つ優秀な人材を配置するとよいでしょう。
7.法人ライセンスの停止
以下の場合には、せっかく設立した海外法人のライセンスがはく奪されてしまう可能性があります。
- 法人ライセンスの継続申請が適切に行われていない
- 法人運営で必要な手続き(会計や税務、報告など)が行われてない
- 政府からの指導に適切に対応しない
- 悪質と捉えられる事例が複数回記録された
犯罪行為や脱税などは論外ですが、気をつけて運営していても、無知によって法人ライセンスが止められてしまうこともあるのが海外の怖いところ。必要な手続きを正しく行うとともに、何か問題が起こった際にすぐに相談できる専門家を確保しておくことが大切です。
8.コスト増
コスト減を目的の1つとして海外法人を設立したにもかかわらず、思ったよりもコストがかかり、結果ほとんどコストカットできなかった、もしくは日本よりもコストが高くなってしまったという声もよく聞きます。
日本ではインフレが一定範囲内に収まっていますが、海外では日本の数倍のスピードでインフレしています。これに伴い、数年で原材料費が2倍になることもしばしば。また、物価上昇に合わせて従業員の給料増額が必要になるケースもあります。
世界は、基本的にはインフレ傾向にあり、それに伴い人件費も向上しています。これを忘れて勢いで海外進出してしまうと、予想外のコストで悩むことになるでしょう。
9.時差によるコミュニケーション問題
日本と遠く離れた国に法人設立した場合、時差の違いでコミュニケーションに問題が生じる場合があります。例えば、ドバイやイギリス、アメリカに法人設立した場合、各国の稼働時間(例として9時~18時)と日本時間は以下のように大きく異なります。
各国の稼働時間 | 日本時間 |
---|---|
ドバイの9時~18時 | 14時~23時 |
イギリスの9時~18時 | 18時~翌日4時 |
アメリカ(ニューヨーク)の9時~18時 | 22時~翌日7時 |
アメリカに設立した法人とミーティングを行うためには、日本の担当者は深夜にスケジュールを組む必要があります。時差が大きな国に法人を設立する場合には、時差によるコミュニケーションの複雑さも視野に入れておくようにしましょう。
10.為替リスク
海外での法人設立は、為替のリスクヘッジに適している反面、為替リスクにより大きな損益を被る可能性もあります。2024年現在は歴史的な円安が続いていますが、もし更なる円安が続けば、為替による大幅なコスト増が発生する可能性があります。
例えば、一躍人気を集めたフィリピン講師とのオンライン英会話に関しては、為替の変動により講師への支払い給与が以下のように大きく変動します。
フィリピンペソと日本円のレート | 日本円換算額 |
---|---|
1ペソ=2.0円(2019年ごろ) | 2万円 |
1ペソ=2.75円(2024年6月ごろ) | 2万7,500円 |
1ペソ=1円(将来に起こる得る為替レート) | 1万円 |
1ペソ=5円(将来に起こる得る為替レート) | 5万円 |
今後為替レートがどのように変遷していくのかは誰にもわかりませんが、為替の変動により、原材料や人材費などが大きく影響を受けるリスクがあることは知っておいたほうがよいでしょう。
海外法人設立でリスクを避けるための対処法
海外法人設立には様々なメリットがありますが、それと同じくらいデメリットやリスクもあります。海外法人設立でのリスクを避け、事業をスムーズに進めるには、いくつかのポイントや対処法を抑えておく必要があります。特に専門家や代行会社との提携は大きな助けになるため、海外進出が初めての方は積極的に検討するとよいでしょう。
市場の徹底リサーチ
進出予定の国や市場について徹底的に事前リサーチを行うことで、法人設立および運営での問題を軽減できます。日本との関係性や租税条約の状況、現地のニーズ、同業他社の状況、為替やインフレの状況など、ビジネスを展開する上で必要となる情報を事前に調べた後、進出の可否を決めるようにしましょう。
進出計画の策定
海外法人設立は、勢いだけで成功するものではありません。市場の理解や現地に根差したマーケティング手法などが必須です。そのため、海外法人設立程度決定したら進出計画を策定し、理論的・計画的に進めることをおすすめします。
特に気をつけたいのが、日本でうまくいったマーケティングが海外で成功するとは限らないこと。現地のニーズをくみ取り、どのように戦略を立てるのかが非常に重要になります。もし現地の知識が不足しているのであれば、早めに専門家に頼るのがよいでしょう。
リスクマネジメント計画
リスクマネジメント計画についても作成しておくとよいでしょう。リスクマネジメント計画とは、何かリスクが起こった際に、どのように行動するのかが示されたものです。例えば、海外で何か問題が発生した場合に、現地で採用した外国人だけで対応したのでは、日本の会社が希望する対応にならないことがほとんどです。
そのため、リスクが発生した際の報告や対応ルートをあらかじめ作っておくことで、重大なリスクを防げます。ただし、リスクマネジメントはすべてを想定して作ることは不可能なため、定期的に見直しや項目追加を行っていくとよいでしょう。
海外法人設立は代行会社利用がおすすめ
海外法人設立は売上を倍増できる、為替の変動にも対応できるといったメリットがある反面で、インフレの影響を受けやすいといったデメリットもあります。また、現地の税務事情の無知による追徴課税などのリスクもあります。
もし自社だけでの対応が難しければ、専門家に外注するのがおすすめです。海外法人設立や運営にあたっておすすめの代行会社の種類は、コンサルティング会社、税理士事務所、弁護士・司法書士事務所の3つです。それぞれ次のような特徴を持ちます。
外注先の種類 | 特徴 |
---|---|
コンサルティング会社 | 市場の状況把握やマーケティング戦略立案が得意。海外進出を考えているが、どのように実施すべきか明確に打ち出せていない企業におすすめ。 |
税理士事務所 | 法人設立において必須の税制面の調査とサポートが得意。税務に関する実務を外注したい、節税に向けたアドバイスや対応をお願いしたい企業におすすめ。 |
弁護士・司法書士事務所 | 法律の観点から安心・安全を重視した海外進出が得意。大規模な海外進出案件など、絶対に失敗できない案件を抱えている企業におすすめ。 |
海外法人設立の成功の鍵は、いかによいパートナー(代行会社)を見つけられるかどうかです。進出国が決まったら、その国に精通した代行会社探しに力を入れるとよいでしょう。