法人を設立することで、優遇税制が受けられる、資金調達がしやすくなるなどのメリットがあります。そのため、ペーパーカンパニーを設立し、同様の恩恵を享受したいと考える方も多いことでしょう。しかしながら、ペーパーカンパニーはグレーな部分が多く、設立には注意が必要です。また、海外でのペーパーカンパニー設立に関しては、節税効果のメリット以上にリスクが伴う場合があるため、事前に十分検討するようにしてください。
本記事では、ペーパーカンパニーとは何かを丁寧に説明するとともに、海外ペーパーカンパニーの設立の手順やメリット、リスクについて解説します。
- ペーパーカンパニーとは?
- ペーパーカンパニーのメリットとリスク
- タックスヘイブンとは?
- 海外ペーパーカンパニーの設立手順
- 海外の法人設立おすすめ国・地域
海外ペーパーカンパニー設立の概要
海外にペーパーカンパニーを設立することで節税を図れる可能性があることから、関心を持つ個人や企業もいることでしょう。ペーパーカンパニー設立は適切な方法で実施しないと違法となる場合があることから、よく理解した上で慎重に行うようにしてください。
ペーパーカンパニーとは?
名前の通り、紙のようにペラペラな会社を指します。つまり、法人登記はされているが、実際には何も活動を行っていない会社のことです。
ダミー会社やゴースト会社と呼ばれることもあります。海外では「dummy company」や「shell company(貝殻のような会社)」と表現され、よく話題に挙がります。
日本においては、ペーパーカンパニーはどちらかというと、悪い意味で使われる場合が多いです。ペーパーカンパニーの設立は税金逃れや悪徳商法と関連性が強いためです。
ペーパーカンパニーは法律に則り、正しく設立・運営(最低限必要な手続き等)された場合には違法ではありませんが、節税目的で行われる場合には脱税行為と判断される場合があります。そのため、設立前にペーパーカンパニーの基本や仕組みを正しく理解する必要があります。
ペーパーカンパニー設立のメリット
法人設立(ペーパーカンパニー含む)のメリットは以下の4つです。特に節税におけるメリットは大きく、税制優遇や補助金の申請など、個人では利用できない制度が利用できる場合があります。ペーパーカンパニーであってもこれらの恩恵を一部享受できます。
節税対策
法人を設立することで、法人税の減額が可能な場合があります。法人税は、企業が各事業年度の活動を通じて得た所得にかかる税金であり、個人で言う所得税の法人版です。中小法人であれば、利益が年800万円以下の場合に税率の軽減措置を受けられます。他にも、法人に対して提供されている様々な制度を活用することで節税対策が可能です。ペーパーカンパニーであっても、一部の制度が利用できます。
資金調達の成功率
法人であれば資金調達の難易度が下がります。法人というだけで信頼性が高まり、ある程度のまとまった資金を銀行や投資家から出資してもらえる可能性が高まります。ただし、ペーパーカンパニーであること(活動実態がないこと)がわかれば逆に評価を下げてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
土地売却損の利益計上
地価の下がった土地を売却し、土地売却損を利益計上します。法人の利益と同等の損額が出る土地をペーパーカンパニーに売却することで、損額と合算して利益ゼロとして計上することができ、利益にかかる税金を節税することができます。
債権の証券化
特別目的会社 (SPC) という資産の流動化のためだけに作られたペーパーカンパニーを設立します。債権保有者が債権を設立したSPCに譲渡し、SPCは債権から得られるであろうキャッシュフローを裏づけに債権を証券として投資家に販売することで、貸付債権や売掛債権などの金銭債権を証券化することができます。
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ペーパーカンパニー設立は違法?
ペーパーカンパニーの設立自体は、正しいルールに則って行ったものであれば違法ではありません。しかしながら、強引な節税を目指したペーパーカンパニー設立は、脱税行為と判断される場合があります。ペーパーカンパニー設立はかなりグレーな領域だということは認識しておくとよいでしょう。そのため、何のためにペーパーカンパニーを設立するのかをよく検討するとともに、税務に詳しい専門家などと相談しながら進めることをおすすめします。
海外ペーパーカンパニー設立と関係の深いタックスヘイブンとは?
タックスヘイブン(租税回避地)とは、他と比べて明らかに納税額が低い国や地域を指します。タックスヘイブンに移住もしくは会社を設立することで、納税額を少額にできる可能性があるため、資産を多く持つ富裕層や起業家がこぞって実施した歴史があります。
例えば、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立し、そこに資本金を移すことで、総合的な納税額を減らす方法が人気を集めました。しかしながらこの方法は悪質性が高いことから、現在は「タックス・ヘイブン対策税制」で対応策がとられています。
タックスヘブンに会社設立すること自体は全く問題なく、現在でも多くの起業家や富裕層が行っています。しかしながら、タックスヘブンでの法人経営は、現地ルールや租税条約など、様々なルールに則った上で実施する必要があります。
海外ペーパーカンパニー設立の注意点
海外ペーパーカンパニーの設立は、正しい法人設立手続きを行えば可能です。エージェントに依頼すれば、日本にいながら海外法人を設立できます。ただし、上記でも紹介したように、節税目的のペーパーカンパニーは対策がとられており、あまり効果が期待できない可能性が高いです。また、明らかな節税目的のペーパーカンパニー設立は、違法性を疑われる場合もあります。さらに、法人設立や維持にはある程度のコストが発生します。そのため、海外にペーパーカンパニーを設立する場合には、明確な目的を定めるとともに、法や税務に詳しい専門家などのアドバイスを受けつつ進めるようにしてください。
海外ペーパーカンパニー設立の具体的手続き
海外ペーパーカンパニー設立の方法は、基本的には海外で法人設立する方法と同じです。必要な準備を行い、要求された書類を作成し、法人設立を担当する政府機関に提出することで法人設立が認められます。この設立した会社を運用するのか、もしくは運用しない(ペーパーカンパニー)とするのかが違うだけです。
海外法人設立の手続きは各国によって異なりますが、基本的には事前調査、エージェント決定、書類作成、法人登記申請、その他各種手続き、法人維持に必要な対応という流れです。
- 事前調査
- エージェント決定
- 必要な書類の準備
- 法人登記申請
- その他各種手続き
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1.事前調査
まずはペーパーカンパニーを設立したい国の調査を行いましょう。外資系企業の法人設立可否や必要な期間・費用、必要書類などを確認します。また、法人をペーパーカンパニーとして維持できるかどうかも重要な調査項目ですので、法人維持にかかる手続きやコストなどを必ず確認してください。
2.エージェント決定
依頼するエージェント(代行会社)を決定します。エージェントなしでも法人設立は可能ですが、その国に渡航したり、必要な書類を一から集めたりする必要があるため、非常に多くの時間と費用を要します。海外ペーパーカンパニー設立の場合、コストをできるだけ抑えて実施するのも重要なため、その国の法人設立に詳しいエージェントの利用がおすすめです。現地エージェントであれば安く依頼できる場合もありますが、安全性の観点から日本のエージェントに依頼するのがよいでしょう。
3.必要な書類の準備
各国で求められている必要書類の準備を行います。必要書類は国によって大きく異なるため、進出予定の国における最新情報を確認してください。多くの国では、以下のようなものを求められます。
- 政府指定の提出書類
- 代表者のパスポート(必要に応じてビザ)
- 現地取締役の詳細情報
- 定款(もしくは定款に類するもの)
- 資本金とその証明
- その他
4.法人登記申請
書類および提出物が準備できたら、法人登記の申請を行います。オンラインから申請できる場合もあれば、現地の政府機会に出向き直接提出が求められることもあります。国ごとに方法が異なるため、事前に準備しておくとよいでしょう。法人登記は早ければ1日で完了しますが、国によっては1ヵ月以上かかる場合もあります。
5.その他各種手続き
法人登記が完了した後、会社運営に必要な各種手続きを行います。例えば、法人運営で必須の銀行口座の開設や代表者の就労ビザ取得、オフィス契約の実施などです。(国によっては、法人登記に必要な資料として求められる場合もあり、その場合には順番が入れ変わります。)これらの準備が完了したら法人経営が可能です。ペーパーカンパニーの場合には特別な活動は必要ありませんが、次で説明する法人維持に必要な作業は必須となります。
海外でのペーパーカンパニー維持に必要なこと
国ごとに法人運営で最低限求められている業務があります。例えば、毎年法人税の申告が求められているのに、その業務を実施しなかった場合には法人資格をはく奪されます。最悪の場合には、追徴課税などで高額の支払いが求められる場合もあるでしょう。ペーパーカンパニーを維持するには、最低限必要な業務を適切に実施する必要があるため、各国でどのような業務が必要になるかを確認し、適切に実施(もしくはエージェントに依頼)しましょう。
税金対策
海外で法人を設立した以上、現地のルールに則って納税を行う必要があります。ペーパーカンパニーで売上がないため納税申告をしなくてよい、というわけではありませんので注意しましょう。また、海外での法人運営にあたっては、該当国の税制に加え、日本とその国の間で定められている税金のルール(租税条約)や国際税務に関する深い知識も求められます。
経営資源
ペーパーカンパニーの運営には一定の資金や人員が必要です。例えば、本社や拠点としてのオフィス、適確な記録を保持するための経理システムなどが必要となります。地域によっては定期的な報告が求められる場合もあるでしょう。海外ペーパーカンパニーの場合には日本人が直接対応できない場合が多いため、現地で人材を雇って実施するのが一般的です。しかしながら、雇った現地スタッフとスムーズに連絡がとれず、思った以上に時間をとられる場合があります。
活動の記録
ペーパーカンパニーを公に認めている国は多くありません。そのため、海外法人が何らかの活動を定期的に行っているように見せる必要があります。もし設立法人が明らかに活動していないと見なされた場合には、立ち入り調査やライセンスはく奪などの対応がとられる場合もあります。
主要な海外ペーパーカンパニー設立地域と特徴
海外ペーパーカンパニーを設立する際には、設立地域や国をよく分析し、自社のビジネスモデルや目的、予算などの条件に合った地域や国を選ぶようにしましょう。
以前は海外ペーパーカンパニーの設立場所を選ぶ際に、法律が不十分な国や税務チェックがなされていない国、つまり見つかりにくい国や地域を選ぶ傾向にありました。しかし、これらは違法性があると判断され、海外ペーパーカンパニー設立のリスクを高める可能性もあります。そのため、適切なリサーチと目的意識をもって設立国を選ぶようにしましょう。
欧州地区の特徴
欧州地区は、EUやイギリスなど大市場へのアクセスが容易という大きなメリットがあります。一方で、時代の流れに合わせて法的整備がハイスピードで進められている地区でもあるため、常に変化への対応が求められます。欧州では監視の目も厳しくなっているため、ペーパーカンパニーの設立難易度は高めです。
タックスヘイブンとして人気なのは所得税が一律20%の「ジョージア」です。ヨーロッパの中では比較的物価が安いため、ある程度収入がある人の移住先として人気があります。
アジア地区の特徴
東南アジアや西アジアは、人口が急激に増加していることもあり、インフラが急速に発達していますが、法的整備が整っていない国も多く、ペーパーカンパニーの設立に適しているといわれた時期もありました。しかしながら昨今、各国が法や税制の整備を行っており、脱税を目的としたペーパーカンパニーの設立には厳しい目が向けられています。
一方で、法人税が一律17%で外資を積極的に誘致しているシンガポールや、日本企業が多く進出しているインドやタイ、ベトナム、フィリピンなどは、日本企業の海外進出ノウハウが蓄積されているのに加え、様々なエージェントがいるため、会社設立自体は比較的簡単です。
北米地区の特徴
アメリカやカナダを含む北米は、大企業からスタートアップ企業まで、様々な規模の企業が新規ビジネスを立ち上げており、非常に多くのノウハウが蓄積されている地区です。会社設立に関する手続き情報を得やすく、日本語対応が可能な各種エージェントもいます。また、アメリカは州ごとに異なる法的基盤を持っていることから、自身にふさわしい環境を見つけ出すこともできるでしょう。
一方で、昨今富裕層の所得隠しや法律の隙間を狙った脱税行為が度々報告されることもあるため、ペーパーカンパニーの設立や維持についてはかなり厳しくなってきていると考えられます。
中東地区
原油によって国が潤っている中東地区は、独自の税制を持つ国や地域が多いことで知られています。例えばUAE首長国の1つであるドバイでは、適切な手続きをとることで法人税を無料にできます。一方で、法人の維持にはライセンス費の支払いや適切な税務対応が必要になり、毎年の維持費が高くなるため、ペーパーカンパニーの設立には適していません。一方で、会社を積極的に運営していきたい方であれば大きな恩恵を受けられるでしょう。
中東では、国や地域ごとによって異なる税制を持つため、ぴったり合う国が見つかるかもしれません。ドバイについては以下の記事で詳しく紹介しておりますので、興味のある方はぜひ参考にしてみてください。
海外ペーパーカンパニー設立のリスク
海外ペーパーカンパニーを設立すること自体は違法ではありません。しかしながら、海外ペーパーカンパニーによる節税効果はあまり期待できず、むしろ脱税として指摘されるリスクがあります。海外ペーパーカンパニーを設立するリスクについて紹介しますので、これらを理解した上で計画するようにしてください。
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法律リスク
法人運営においては、税法や金融法規、労働法などに遵守した上で行う必要があります。これらを順守しなかった場合には各国で処罰が下されます。税法などは頻繁に変わるため、常に進出国の税制改革を確認する必要があるでしょう。また、各国の法律は非常に複雑で、専門家でないと理解できない場合もあります。専門家に依頼する場合、さらなる人件費が必要となります。
経済的リスク
ペーパーカンパニーだとしても、会社の維持には一定のコストがかかります。進出した国によって異なりますが、オフィスレンタル費や人件費、法人のライセンス費、決算や確定申告などの会計・税務費用などが必要です。これらの費用が思ったよりも大きく、ペーパーカンパニーを維持するだけで毎年数百万円もの費用が必要になることもあります。
海外ペーパーカンパニー設立の成功と失敗
海外ペーパーカンパニーが注目される理由の1つに、節税効果が挙げられます。たしかに一昔前は、タックスヘイブンに法人を作り、株式や資産を移動させ、その法人ベースで取引を行うことで、納税額を大きく減らすことができました。しかし現在は、タックスヘイブン対策税制が効力を発揮しているため、この方法での節税はできません。強引に実施しようとすれば、脱税行為と捉えられ、より大きな税支払を求められることもあります。そのため、節税の観点から海外ペーパーカンパニーを設立しようとするのは避けたほうがいいでしょう。
一方で、海外の富裕層の中には、海外にペーパーカンパニーを設立し、就労ビザを取得し、移住に成功している人も多くいます。目的が海外移住であれば、海外ペーパーカンパニーの設立は1つの選択肢となります。
なぜ海外ペーパーカンパニーを設立する必要があるのかを今一度確認してみるとよいでしょう。
海外ペーパーカンパニー設立ではなく、タックスヘイブンでの事業展開がおすすめ
海外ペーパーカンパニー設立は、思ったほどのメリットが享受できないだけでなく、様々なリスクと隣り合わせでもあります。そのため、明確な目的がないのであれば避けた方がよいといえます。一方で、ドバイやシンガポールなどの税制が低い国や地域での法人運営には大きな可能性があります。日本では今後、政府から更なる税負担を強いられる可能性があります。もしより多くの利益を追求したいのであれば、タックスヘイブンへの会社設立を検討してみるとよいでしょう。